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なぜ、薬が病気を治すと信じる世界になったのか?

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現代医療を端的に表現するのであれば、「薬の時代」と言い表すことができます。

つまり、薬の力(効果・効能)によって、病気を治すということです。

では、この薬の時代とは、いつから始まったのでしょうか。

何をもって薬と定義するかによっても変わりますが、古代においては、くすりと言えば、もっぱら生薬(草根木皮あるいは動物・鉱物)のことを指していました。

古代ギリシャでも古代中国でも、植物が薬の基本で(薬用植物)、それに加えて、動物・鉱物も用いられていました。

東洋では、伝統中国医学を継承したものが漢方医学として発展すると、薬は漢方薬をも指すようになりました。

一方、西洋では、十八世紀後期より、薬用植物から有効成分を抽出したものに加えて、人為的に薬物同士を合成する方法も確立されていきます。

当時は、産業革命のさなかであり、都市部に人口が集中し伝染病の危険性が増大していたとも言えます。

それに伴い、必要に迫られて自然に発展していったという一面もあるのかもしれません。

つまり、現在、私たちが主流で使用しているタイプの薬とは、十八世紀後期頃に作られ始めたものが起源であるとも言えます。

では、この時点で「薬が病気を治す」という大きなパラダイムシフトが起きたかというと、そうではありません。

まだ、この時点では、今の現代人が薬に対して抱くような感覚は人類全体には無かったのかもしれません。

しかし、ある薬を境に、世の中の概念は大きく転換してしまう事になります。

それが、ペニシリンです。

ペニシリンは、1928年にアレクサンダー・フレミング博士によって発見された世界初の抗生物質です。

フレミング博士はノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

発見後、医療用として実用化されるまでに十年以上の歳月を要しましたが、1942年に実用化され、第二次世界大戦中に、多くの負傷兵や戦傷者を感染症から救いました。

1939-1945年に起きた第二次世界大戦は、現状においては人類史上最大最悪の戦争で、世界61ヵ国参戦、1億1020万人が軍隊に動員され、死者だけで軍人・民間人も合わせて約5~8千万人(1)、当時の世界総人口は約23億人(2)であったと言われています。

死に至るしかなかった非常に多くの患者を、薬の力によって救うことができたことによる功績によって、ペニシリンは二十世紀における偉大な発見の一つとも言われています(3)



ペニシリンの作用とは、正確には細菌の増殖を抑制することであり、病気を治すこととは少し違うと言えます。

負傷した兵士の傷口から細菌が侵入し増殖します。

本来のカラダの機能(免疫)が正常に機能していれば、細菌が体内で増殖することはできないようになっています。

しかし、負傷した兵士のように、精神的・肉体的にも大きなダメージを受けている場合は、本来のカラダの機能が102%果たせずに、細菌の増殖を許してしまうこともあります。

兵士の体力の回復が、細菌の増殖の勢いに間に合わないことが多いため、感染症により多くの兵士が死ぬことになります。

そこで、ペニシリンにより細菌の増殖を一時的に抑制することができれば、その間に体力は徐々に回復し、カラダは細菌を抑え込むことのできる力を再び取り戻すことができます。

つまり、ペニシリンは、病気を治しているのではなく、病気の進行を一時的に止めることにより、カラダが病気を治すのをサポートするものであるとも言えます。

ただ、見かけ上は、ペニシリンを打つと助かるため、まるでペニシリンが病気を治したように見えます。

しかし、結局は、医学の父であるヒポクラテスがたどり着いた、「人間のカラダの力によって病気が治る」という真理は、何も変わってはいません。




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