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第一章|β-グルカンのすべて

4. β-1,3-1,6-グルカンの生理活性

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免疫をサポートできるβ-グルカンの条件。


はじめに。

日本においてβ-グルカンの研究は、霊芝やシイタケ、マイタケ、メシマコブ、キクラゲといった数多くの菌類の熱水抽出物を対象としていました。

その中で、強い抗腫瘍活性の認められたシイタケ由来のレンチナンと、スエヒロタケ由来のシゾフィランは、医薬品としての認可も受けています。

このレンチナンとシゾフィランの2つの抗腫瘍剤は、高度に精製されたβ-1,3-1,6-グルカンであり、両者の研究から抗腫瘍活性などの生理活性を引き起こすグルカンについて、いくつかの情報を得ることができます。


分子構造について。

レンチナンもシゾフィランも、β-1,3-1,6-グルカンに分類されるものであることから、 β-1,3-1,6-グルカンであれば活性があるように思われます。

しかし、レンチナンと類似構造をもち同じくβ-1,3-1,6-グルカンであるパキマンは活性をもちません。

構造式 立体構造 活性
レンチナン β-1,3-1,6 3重らせん構造 あり
パキマン β-1,3-1,6 ランダムコイル なし
パキマラン β-1,3 3重らせん構造 あり
シゾフィラン β-1,3-1,6 3重らせん構造 あり

一方、活性の無いパキマンの立体構造をレンチナンと同じ3重らせん構造に変換したパキマランは、レンチナンと同様の強い抗腫瘍活性をもつようになります。

つまり、成分の構造式よりも、立体構造の方が活性を発現するための重要な要素ということになります。


側鎖の分岐について。

レンチナン、シゾフィランはともに、β-1,3-1,6-グルカンであったことから、主鎖がβ-1,3-結合にて連結され、側鎖として1分子のグルコースがβ-1,6-結合されている物質が免疫賦活をもたらすのに適しているように思われます。

レンチナンとシゾフィランの分子構造
レンチナンとシゾフィランの分子構造

このβ-1,6-結合にて連結された1分子のグルコース(青玉)は、免疫賦活作用を引き起こすために必要であるというよりはむしろ、β-グルカンが水溶性をもち、水中にて3重らせん構造をとるために必要であると考えられます。


分子量について。

シゾフィランの実験から、抗腫瘍活性には分子量が5万以上必要であることが示唆されました。この結果も、単に高い分子量が必要なのではなく、5万以上の分子量をもつβ-1,3-1,6-グルカンでないと水中にて3重らせん構造を形成できないことに起因していました。


立体構造が活性の重要な要因。

以上のことをまとめると、水中で3重らせん構造を形成するβ-1,3-1,6-グルカンが、体内に存在するであろう受容体に認識され、免疫応答を引き起こすのではないかと考えられます。


β-グルカンの受容体について。

これらの、物質の構造に着目した研究から導かれた、体内のβ-1,3-1,6-グルカン受容体の存在は、近年盛んに行われ始めた生体の機構に着目した研究において発見されることになりました。

β-1,3-1,6-グルカンによる免疫賦活作用の発現機構についてこれまでに発表された、論文・学会報告をまとめると以下の様になります。

β-グルカンの免疫賦活メカニズム
β-グルカンの免疫賦活メカニズム

まず、β-1,3-1,6-グルカンが生体内で標的となる細胞(腸管上皮細胞や、各種免疫細胞など)と出会うと、その細胞表面に存在する受容体に結合します。

細胞表面に存在する受容体は、各細胞の種類によっても異なり、様々な異物を認識できるよう多種多様な受容体が存在します。


現在までに、β-1,3-1,6-グルカンの受容体としてCR3、Dectin-1、Toll like receptor :TLRファミリー(ヒトでは10種)の3タイプが報告されています。

受容体にβ-1,3-1,6-グルカンが認識されると細胞内に情報が入り、その結果、細胞内でサイトカイン(情報伝達物質)と呼ばれる免疫系を調節あるいは活性化するタンパク質が作り出されます。

このサイトカインによって免疫系を担う免疫細胞が活性化され、活性化された免疫細胞が腫瘍・細菌。寄生虫などを攻撃すると考えられています。


結局、生理活性をもたらすグルカンの条件とは。

これら受容体において認識されるのに、どのような分子量、分岐度、立体構造が必要であるのかということはまだ証明されていません。

そのため、現時点での、生理活性をもたらすβ-1,3-1,6-グルカンの条件は、「受容体において認識され、細胞を活性化することのできる構造をもつもの」であると言えます。

つまり、レンチナンやシゾフィランの様に、ヒトで試験して免疫が向上することが証明されたものが、免疫をサポートできるβ-グルカンであるということになります。(ヒトで試してみなければ活性があるのかどうかはわからないということです。)

黒酵母由来のソフィβ-グルカンも、レンチナンと同様にヒトでの機能性が証明されたβ-グルカンです。


あとがき。

現在知られているβ-1,3-1,6-グルカンの機能性は抗腫瘍効果、アレルギー症状の緩和、抗寄生虫等多岐にわたっています。

これらの現象は、β-1,3-1,6-グルカンによる、宿主の免疫力を利用した宿主免疫系の賦活作用に起因するものと考えられており、既存の抗がん剤のように細胞毒性によってターゲットを死に至らしめるものとは全く異なった作用機序を有しています。

現在、このような癌やある種の感染症に対し、非特異的能動免疫療法(Biological response modifier:BRM)、つまり特別に特異的抗原による免疫という操作を加えずに、宿主の免疫能をあげることによって癌細胞あるいは感染体を殺す治療法は、非常に有効な手段の一つであると考えられています。