TOP > 成分情報 > β-グルカン解体真書

第一章|β-グルカンのすべて

4. β-1,3-1,6-グルカンの生理活性

03

シゾフィラン(スエヒロタケ由来のβ-1,3-1,6-グルカン)について。


シゾフィランとは。

シゾフィランは担子菌類のスエヒロタケを、グルコース液体培地で培養した際に菌体外に産生されるβ-グルカンで、抗悪性腫瘍剤として静脈注射にて用いられています。


シゾフィランの分子構造。

β-1,3-結合で連結されたグルコースを主鎖にもち、そのグルコース残基約3個に1個の割合でβ-1,6-結合にてグルコース1分子からなる分岐が存在するβ-1,3-1,6-グルカンです。

シゾフィランの分子構造
シゾフィランの分子構造

分子量600万と非常に大きな分子です。また、レンチナンと同じく3重らせん立体構造をもちます。


粘度が高すぎて使いずらい。

シゾフィランは分子量が大きく、非常に長い鎖状分子です。そのため、低濃度であっても極めて高い粘性を示します。

この粘性のために薬剤としての調製や体内投与が困難であったことから、抗腫瘍活性を低下させることなく水溶液粘度を減少させるよう、溶液に超音波を照射し、長い分子鎖を切断し短くする方法が検討されました。


超音波を照射して分子鎖を短くする。

シゾフィランの1%水溶液に、19.5kHzの超音波を照射すると、極限粘度が徐々に低下することが観測されます。

β-グルカンの3重らせん構造の超音波による解重合
β-グルカンの3重らせん構造の超音波による解重合

長い分子鎖は切断され、分子の長さが短くなることで、粘度も低下していきます。

超音波照射により、シゾフィランの主鎖は切断され、分子量が低下するものの、側鎖のグルコースが切断されることは無く、基本的に照射前と同じ構造を保つことが確認されています。

超音波処理後のシゾフィランについて完全スミス分解、緩和スミス分解の結果、処理前と同じ構造をもつことが証明されています。


実験1:超音波(短時間)

シゾフィランの分子鎖は切れますが、まだ分子量も大きく(5万以上)、3重らせん構造は維持されており、活性もあります。

β-グルカンの3重らせん構造の超音波による解重合
β-グルカンの3重らせん構造の超音波による解重合

実験2:超音波(長時間)

分子鎖はどんどん切れ、分子量が小さくなり(5万以下)、3重らせん構造を保てずに、らせんがほどけます。それによって活性も無くなります。

β-グルカンの3重らせん構造の超音波による解重合
β-グルカンの3重らせん構造の超音波による解重合

実験3:150℃で加熱後、低濃度冷却

150℃で熱し、0.1%以下の低濃度にして冷却すると、分子鎖は切れずに(分子量600万は保持したまま)、ほどけてランダムコイルの状態になります。3重らせん構造は無くなり、活性も無くなります。

β-グルカンの3重らせん構造の超音波による解重合
β-グルカンの3重らせん構造の超音波による解重合

3重らせん構造の保持には、ある程度の分子量が必要。

シゾフィランに超音波を照射し、分子を切断していくと、分子量が5万以上であれば3重らせん構造は維持されますが、分子量が5万以下になると、3重らせん構造を維持できずに活性がなくなります。

構造 活性 分子量
処理前 3重らせん構造 あり 600万
超音波
(短時間)
3重らせん構造 あり 5万以上
超音波
(長時間)
ランダムコイル なし 5万以下
150℃
低濃度冷却
ランダムコイル なし 600万

つまり、これらの結果は、シゾフィランの抗腫瘍効果が、3重らせん構造を形成する5万以上の分子量を必要とすることを示唆しています。