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Column 015

普通に運動を続けても成果が出ない理由。

運動する女性
運動する女性

Introduction -導入-

世間では、歩いたほうがいいとか、筋トレしたほうがいい、ヨガをした方がいいなど推奨される運動はたくさん存在します。人それぞれ、痩せたい、健康になりたい、病気を治したいなど様々な目的がありますが、一体、私たちに必要な運動とは何なのでしょうか。

どのような運動も科学的根拠があったり、経験則から提案されるものであり、いずれもカラダにとって良いものと言えます。ここでは、もっと大きな概念で必要な運動について考察していきます。

最も必要な運動が何かは研究ではわからない?

様々な研究によってカラダへの効果が判明しますが、その結果は人間のカラダのごく一部の情報です。人間のカラダをすべて理解できていない以上、その結論が本当に正しいのかさえ分からないのが現状です。

研究風景
研究風景


人間が考え出した結論が、正解とは限らない。


研究により変化を見るには条件を限定する必要もあり、得られる結果は特定の条件下での話になります。そして、得られた結果を、研究者がどのように捉えるかによっても結論は変わります。ある現象に対して正しいという研究者もいれば、悪影響があると述べる研究者もいます。

多くの研究者が正しいと述べることで世界の常識になっているような事であったとしても、研究が進むにつれて既存概念がくつがえることもよくある話です。結局、研究結果というのは参考にはできても、鵜呑みにすることはできないものであると言えます。

参考にするべきは、動物がしている運動。

最も必要な運動が研究で解き明かされるのを待っていてはきりがありません。そこで参考にするのが自然界の動物たちです。

動物
動物

動物たちのライフスタイルに、求める答えがある。


本来、人間は他の動物たちと同様に自然の中で暮らす生き物です。自然界で生活することを前提として、動物のカラダは進化・発達してきています。

つまり、自然界で日常的に動物たちがしている運動がカラダにとって最も必要な運動と考えることができます。何千年何万年という途方もない時間をかけて進化してきた自然界の動物たちほど、お手本になるものはありません。

人間の頭で最も必要な運動とは何かを解き明かすまでもなく、自然界に求める答えがあると考えることが最も理にかなっています。

動物がしている運動は、大きく2つしかない。

①食料を得るための運動(狩りや移動)と、②敵に狩られないための運動(逃走)。

狩るor逃げる
狩るor逃げる

「狩り」や「逃走」は、動物が自然界で生き残るための行為であり、動物が必要に迫られて日常的に行っている運動です。義務的でも意識的にするものでもなく、自然界での動物のライフスタイルそのものです。

自然界での運動の共通点とは?

動物たちは、生きるか死ぬかの弱肉強食の世界に生きています。動物たちは必至で狩りをしなければ、必死で逃げようとする獲物を捕まえることはできません。また、必死で逃げなければ、必死で自分を狩ろうとする敵から逃げきることはできません。

生きるor死ぬか
生きるor死ぬか

つまり、自然界で動物たちが行っている命がけの運動とは、出し惜しみをしない自身のもてる力を最大限まで使った全力の運動とも言えます。

結局、必要と考えられる運動とは何か?

日常生活を振り返った時に、本気でダッシュ(走行)したり、本気の力で重いものを持ち上げるなど、自分の筋肉を限界まで使うことはあるでしょうか。

食物連鎖の頂点にいる私たち人間にとって、自然界の動物たちのように殺されるかもしれないような状況下で運動することはまずありません。現代社会に生きる私たちと、自然界の動物たちとでは、運動の本質が大きく異なります。


本気を出すことのできる運動が動物(人間)には必要。


つまり、特定の運動が必要なのではなく、どのような運動であっても全身の筋肉を最大限まで使えるかどうかが重要なポイントであるとも考えられます。

なぜ、普通に運動しても成果が出ないのか?

多くの人が運動に期待する効果は、カラダそのものを変えることであると言えます。

例えば
・痩せやすいカラダに
・病気になりにくいカラダに
・病気を治しやすいカラダに
・引き締まったカラダに
・若く美しいカラダに


しかし、これらの効果というのは、運動そのものによって得られるものでなく、運動がカラダに与える負荷により、カラダそのものが変化することによって引き起こされるものです。


成果が出ないのは、カラダが変わっていかないから。

カラダが変わる運動
カラダが変わる運動

カラダは置かれた環境に適応するものだから。

カラダは環境に応じて変化・適応する能力をもっていますが、その変化は必要に迫られて初めて起こるものです。そのため、低負荷の運動を続けても、カラダは変化する必要性を感じていないため良い方向へは変わろうとはしません。

むしろ、低負荷の状態に適応しようとするため現状維持か退化する方向へと進んでいきます。逆に、高負荷の運動を続ければ、それに適応しようとしてカラダは変わろうとします。


カラダそのものが変化することで、はじめて様々な成果が出る。


大きなカラダの変化とは、筋肉量の増加。

高負荷の運動によりカラダに起こる変化は様々ありますが、私たちが運動に期待している多くの効果というのは、筋肉量の増加を起点にして生じているものであると考えられています。筋肉の増加は低負荷の運動による刺激では起こらないため、高負荷の運動(本気の運動)が必要であるということになります。

運動により起こる変化
運動により起こる変化

筋肉量の増加でカラダに起こる変化の理由。


なぜ体温が上がるのか?

筋肉の収縮すると熱が生じます。そのため筋肉量が多いほど、多くのカロリーが消費され熱に変換されます。これにより生命維持に必要な体温を維持しています。

筋肉は体温の約40%の熱を生む。
筋肉は体温の約40%の熱を生む。

人間の体温の約40%は、筋肉の収縮により生じる熱であると言われています。


同じ身長体重の筋肉が多い人と筋肉が少ない人が同じ運動量の生活を送った場合、筋肉の多い人の方が筋肉の収縮で発生する熱量が多くなるため平均体温が高くなると言えます。


なぜ免疫機能が向上するのか?

免疫細胞は温度の高い状況下で活発に活動することができます。そのため筋肉量の増加により体温が高くなれば、免疫細胞の活動能力も高くなるため免疫機能が向上することにつながります。

体温と免疫細胞
体温と免疫細胞

参考論文 Redox signal-mediated sensitization of Transient Receptor Potential Melastatin 2 (TRPM2) to temperature affects macrophage functions Makiko Kashio, Takaaki Sokabe, Kenji Shintaku, Takayuki Uematsu, Naomi Fukuta, Noritada Kobayashi, Yasuo Mori, Makoto Tominaga米国科学アカデミー紀要Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(電子版)2012年4月9日


なぜ基礎代謝が増えるのか?

基礎代謝とは、人間が動かずにじっとしている時に消費するエネルギーのことであり、生命維持のために消費する必要最低限のエネルギーです。基礎代謝に使われるエネルギーのほとんどは体温を維持するために消費されるエネルギーと言われています。つまり、体温が高くなるということは、基礎代謝も必然的に増えるということになります。ちなみに、最も基礎代謝を消費するカラダの部位は筋肉(骨格筋)になります。

基礎代謝の内訳
基礎代謝の内訳

引用元:厚生労働省e-ヘルスネット「ヒトの臓器・組織における安静時代謝量」 (糸川嘉則ほか 編 栄養学総論 改定第3版 南江堂, 141-164, 2006.)


なぜ身体活動量が増加するのか?

身体活動量とは、日常生活で行う家事や仕事など、日常の中で活動し使った運動の量(エネルギー)のことです。運動自体によっても身体活動量は増えますが、筋肉量が増えると、日常の中で同じ動作(筋肉の収縮)を行ったとしても消費されるエネルギー(身体活動量)は大きくなります。

1回の筋肉収縮で消費されるエネルギー
1回の筋肉収縮で消費されるエネルギー

カラダが変わる運動と変わらない運動?


動物のカラダは、自身のおかれた環境に適応するようにできています。カラダに高い負荷を与えれば、その負荷に適応するように身体機能は強くなり、逆に弱い負荷しか与えなければ、それに合わせて身体機能も衰えていきます。

どのような運動であっても、その運動の負荷レベルに合わせてカラダは適応していくとも言えます。

カラダが変わる運動と変わらない運動
カラダが変わる運動と変わらない運動

カラダを変えるポイントは、自分の限界の力を出し切ること。


低負荷の楽な運動を続けていてもカラダはなかなか変化しません。なぜなら、カラダが自身の体を現状よりも発達させなくても、現状を維持したままでその運動を続けることができるからです。必要に迫られなければカラダは変化しません。

逆に、高負荷の少し苦しいぐらいの運動を短時間行うと、次回からその運動を楽にこなせるようにカラダは変化しようとするため身体機能が発達する可能性は高くなります。

本気出さなきゃ
本気出さなきゃ

つまり、カラダを変えようと思うのであれば、一時的に現状もてる力の限界を出し切る必要があります。一時的につらい思いをしますが、その分カラダに対する恩恵は大きくなります。

おすすめの運動とは?


自分の力(全身の筋肉)を限界まで追い込むことのできる運動なら、どのような運動をしても構わないと考えられます。ポイントは、息を切らして、もうできないと思うようなところまでカラダに高い負荷をかけることです。

効果の高いものとして言われているのは、強度の高い筋トレとHIIT(高強度インターバルトレーニング)です。当然この二つでなくても構いませんが、自然界に近いと考えられる運動の例として挙げています。

筋トレとHIIT
筋トレとHIIT

HIIT(高強度インターバルトレーニング)とは、負荷の高い高強度の運動を、全回復しないような休憩もしくは低強度の運動を挟みながら繰り返す運動スタイルのこと。

長時間の運動が必要なのか?


自然界での動物たちを参考にした場合、彼らの行っている運動は、先にも述べたように、「狩る」+「逃げる」の大きく二つの運動です。このような運動とは、自然界で生存するために全力で行う運動ではあるけれども、長時間の運動ではありません。

長時間しないよ
長時間しないよ

全身のカラダの筋肉を全力で使うような運動は、短時間で息が上がり、長時間継続することができないようになっています。しかし、自然界の動物は、長時間の運動はしなくても健康を維持できています。

つまり、カラダへの負荷を下げれば長時間の運動も可能ですが、高負荷の運動であれば短時間でも良いということが言えます。

注意マーク
注意マーク

焦らずゆっくり、カラダを強くしていこう。


推奨する運動は、筋トレやHIITなど高負荷の運動ですが、何事もストレスのかからない程度に無理なくゆっくりと始めることが大切です。

普段、強度の高い運動をしていない人が急にそのような運動をすればケガをする可能性も高くなります。焦らずゆっくり時間をかけながら、高負荷の運動を日常に取り入れていきましょう。

まとめ



自然界に近い運動によって、カラダは健康を維持できる。


運動は最も優れた
健康法の一つ。



人間は、動物だから。

日常的に運動することが自然界での動物のライフスタイルの一つです。そのライフスタイルを前提にカラダの様々な機能は進化・発達してきているため、その前提が崩れれば様々な健康問題が生じる可能性は高くなります。逆にその前提を守れていれば、カラダは健康を維持してくれるとも言えます。

現代人のライフスタイルは、自然界での動物のライフスタイルからどんどんズレていっています。このズレは運動だけではなく食事や睡眠、ストレスなど多岐にわたります。