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Column 003

花粉症の人は、ガンになりやすい?なりにくい?

花粉症の女性
花粉症の女性

Introduction -導入-

世間では、「花粉症の人はガンになりやすい」という主張と、「花粉症の人はガンになりにくい」という、全く異なる2つの主張が存在します。一体、どちらが正しいのでしょうか。

花粉症は、免疫の過剰反応だとよく言われますが、そもそも免疫系には、2種類の免疫(Th1とTh2)があることを皆さんはご存知でしょうか。ここでは、少し専門的な観点から、花粉症とガンの関係性を考察していきます。

「花粉症の人はガンになりやすい」という主張とは?

花粉症は、「アレルギー性鼻炎」に分類されるように、「炎症」の一つです。花粉症の人は、正常な人よりも炎症を起こしやすく、細胞を傷つけやすい。細胞の修復と回復を重ねるたびに、細胞分裂の異常(複製ミス)が起こりやすくなるため、発がんしやすくなるという主張です。

細胞の分裂と異常細胞
細胞の分裂と異常細胞

日々、細胞の複製ミスによってガン細胞が生まれていますが、そのガン細胞を免疫細胞が除去し、ガンの増殖を抑えることで、人間のカラダは、ガンになるのを防いでいます。しかし、ガン化するガン細胞の数がより増えれば、ガンを抑え込むことができずに、ガンになりやすくなる可能性も高くなります。

つまり、免疫が過剰に反応している花粉症の人は、そうでない人よりも、炎症を起こしやすく、ガン化する細胞の数が増えるので、ガンになりやすいのではないかという様な内容です。

「花粉症の人はガンになりにくい」という主張とは?

こちらの主張は、もう少し単純です。免疫が過剰に反応しているという事は、免疫が強いという事とも理解できます(後述しますが、正確には少し違います)。

免疫力とガン抑制
免疫力とガン抑制

日々生まれるガン細胞を攻撃・除去する能力も高く、毎日しっかりガン細胞を処理できるため、ガンになりにくいという内容です。

実際には、花粉症の人はガンになりにくい?

「花粉症の人はガンになりやすい」vs「花粉症の人はガンになりにくい」。一体、どちらの主張が正しいのかは別として、実際には、花粉症の人は、ガンになりにくいというデータが様々出ています。

1955年から2006年までに発表された、アレルギーの人とガンに関する論文(論文数:148件/研究数:646件)を、分析した論文があります。

※このような、分析された論文を、さらに分析することを、「メタ分析」と言います。数多くの論文を分析することで、新たな情報や、より信憑性の高い情報を得ることができます。

アレルギーの人が、ガンになる可能性とならない可能性
アレルギーの人が、ガンになる可能性とならない可能性

The Quarterly Review of Biology, 2008 Dec;83(4):339-62 / Allergies : their role in cancer prevention, Sherman PW, Holland E, Sherman JS.

「アレルギーの人はガンになる可能性が高い」と報告した研究レポート数の2倍以上の研究レポートが、「アレルギーの人はガンになる可能性が低い」と報告していたことが明らかとなっています。

つまり、現実には、アレルギーの人は、ガンになっていない人の方が多いという事になります。

また、この論文では、「アレルギー症状は、体の様々な器官が悪性腫瘍の要因となる前に、毒を出す防衛機能である可能性がある」と考察しています。

免疫の過剰反応だから、花粉症の人は免疫力が強いのか?

「花粉症の人はガンになりにくい」という主張の、大きなキーワードは、「免疫の過剰反応」です。つまり、免疫力が強いから、ガンになりにくいと主張していることになりますが、本当に花粉症の人の免疫力は強いのでしょうか?

人間の免疫系には、自然免疫と獲得免疫の2つあり、花粉症などのアレルギーの原因となる免疫の過剰反応とは、獲得免疫の液性免疫(Th2)の異常な反応であると考えられています。

免疫系(自然免疫と獲得免疫)
免疫系(自然免疫と獲得免疫)

※Thとは、ヘルパーT細胞の頭文字を意味しています。

つまり、「免疫力の過剰反応」とは、単純に「免疫力が強い」という意味合いではありません。花粉症の人は、正常な人とは異なり、その異常な体質により、おかしくなった免疫が過剰に反応しているだけではないかと考えられています。

免疫システムの、Th1とTh2とは?

人間の免疫は、第一防衛ラインは自然免疫ですが、自然免疫で問題を解決できない場合に、より強力な獲得免疫という免疫で対処します。獲得免疫とは、一度戦った敵(病原体や異常細胞など)の情報を記憶し、二度目の戦いを有利に運べるように進化していく免疫とも言えます。

さらに、獲得免疫には、細胞性免疫(Th1)と液性免疫(Th2)の2形態あります。病原体の種類や状況により、戦闘形態を変えながら、最も効率的に病原体を無効化・除去できるようになっています。

細胞性免疫(Th1)と液性免疫(Th2)
細胞性免疫(Th1)と液性免疫(Th2)

細胞性免疫(Th1)とは
Th1細胞により誘導される免疫系で、マクロファージやキラーT細胞(CTL)、NK細胞を活性化させることで、液性免疫(Th2)では除去できない病原体(細胞内に逃げる病原体)を攻撃・除去するための戦闘形態です。様々な免疫細胞が関与していることから細胞性免疫と呼ばれます。例えば、癌細胞は、この細胞性免疫(Th1)により除去されます。

液性免疫(Th2)とは
Th2細胞により誘導される免疫系で、B細胞に抗体を作らせ、血液中の病原体(細胞内に逃げ込まない細菌や寄生虫など)を一掃することから、液性免疫と呼ばれます。花粉症の人は、この液性免疫(Th2)が過剰に反応することでアレルギー症状を引き起こしています。

Th1/Th2バランスとは?

カラダは病原体を除去するために、細胞性免疫(Th1)と液性免疫(Th2)という異なる戦術を使い分けています。展開している一方の戦術に集中するため、片方が活性化されているときは、もう片方の機能は弱くなるようになっています。

まるでシーソーのようにバランスをとっているため、Th1/Th2バランスとも呼ばれます。

Th1/Th2バランス
Th1/Th2バランス

Th1が強く、Th2が弱い場合は、「Th1優位な状態」といい、その逆に、Th1が弱く、Th2が強い場合は、「Th2優位な状態」と言われます。

Th1/Th2の考え方は、免疫にかかわる最も重要な項目の一つです。アレルギーや自己免疫疾患などの多くの現象が、このTh1/Th2バランスにより説明されています。

免疫のバランスが崩れるから、問題が起きている?

Th1/Th2バランスは、病原体の排除が終われば、自然に平衡状態に戻ると考えられています。Th1/Th2バランスが元に戻らないままであると、様々な問題が発生します。

アレルギーと正常な人のTh1/Th2バランス
アレルギーと正常な人のTh1/Th2バランス

例えば、花粉症(アレルギー)の人は、Th2優位な状態になっており、Th2が過剰に反応することでアレルギー反応を引き起こしていると言われています。

実は、ガンの人は、花粉症の人と同じ状態?

ガンの人は、ガン細胞の除去に関与するTh1が弱く、Th2優位な状態です。これは、アレルギーの人のTh1/Th2バランスと同じ状態でもあります。

アレルギーとガンの人のTh1/Th2バランス
アレルギーとガンの人のTh1/Th2バランス

また、アレルギーの人もガンの人も、Th1優位な状態に導いてやることで、正常な本来のバランスを取り戻すことができれば、症状が改善されるとも言われています。

なぜ、花粉症の人は、ガンになりにくいのか?

花粉症の人は、ガンの人と同じようにTh2優位な状態にあるため、ガン細胞の除去に必要なTh1が弱くなっています。そのため、花粉症の人は、ガンになりやすいと考えられます。

しかし、実際には、花粉症の人はガンになりにくい人が多いことから、Th1/Th2バランスだけでは説明できないのが現状です。

このような矛盾点は、他にもあります。例えば、発展途上国などに多い寄生虫感染症は、Th2優位でなることが知られていますが、Th2優位であるはずなのに、アレルギー疾患の罹患率は低い傾向があります。

また、アトピー性皮膚炎の患者のアレルギー反応が、年齢とともに軽減されていくケースがあるように、Th1/Th2バランスは、病期によっても変化し、さらに同一個体の部位によってバランスが異なる可能性もあります。

人間のカラダは複雑で、まだまだ不明な点も多いため、問題をうまく説明できない部分が存在することは、ごく自然なことかもしれません。

どうして免疫のバランスが、崩れるのか?

ここ数十年で、花粉症をはじめとするアレルギー疾患の罹患率が先進国を中心に増加してきた現象を、短期間での遺伝子レベルにおける変化の結果とは考えにくく、むしろ環境の変化、特に衛生面での改善が原因とする「衛生仮説」が提唱されています。

「衛生仮説」とは、簡単に言えば、清潔で綺麗すぎる現在の私たちの生活環境が、アレルギーの原因ではないのかという事です。

昔に比べて、現在は、衛生レベルが高すぎることが問題。

アレルギーの人は、Th2優位な状態であり、逆にTh1が弱い状態です。Th1は、ウィルスや細菌などの病原体に接触することで活性化され強くなります。本来、人間が自然界に生活していれば、病原体に接触する機会も多く、Th1は自然に高く維持されます。

ウィルスと細菌
ウィルスと細菌

日常の中でTh2優位な状況になったとしても、普段の生活をしているだけで、自然にTh1/Th2バランスが保たれていくとも言えます。

逆に、病原体を避けるような衛生すぎる環境であると、Th1が活性化されずに、 Th1/Th2バランスが崩れ、その状態が維持されてしまうことで、花粉症やアレルギーなどの問題が生じる可能性は高くなると考えられています。

つらい花粉症を、治すには?

花粉症(アレルギー)の人は、免疫力が強いわけでも弱いわけでもなく、免疫のバランスが崩れていることが原因と考えられているため、Th1/Th2バランスを正常な状態に戻すことが解決策の一つであると言えます。

また、「衛生仮説」のように、本来の人間のあるべき生活習慣から、かけ離れることが、花粉症に限らず様々な健康問題の根本原因であるとも考えられます。

太古の地球
太古の地球

人間も含め、すべての動物は、本来は自然の中で生きているものです。生物の免疫系は、長い年月をかけ進化してきましたが、「自然の中で生きている」という大前提のもと、正常に機能するようになっているはずです。多少のずれは許容できたとしても、あまりに本来の状態から離れれば、問題が起きても不思議ではありません。

つまり、できるだけ自然界で人間が生きている状態と同じ状態に近づけることが最も大切なことなのではないでしょうか。普段の生活習慣の中で、本来の自然界での生活習慣と異なる習慣を一つづつ戻していけば、問題は自然に解決していくのかもしれません。

正すべき生活習慣としていくつか例を挙げると、



過剰に衛生的にする必要はない。

Th1を高めるには、ウィルスや細菌といった病原体に日常的に接触する必要があります。無理に不衛生な環境に身を置く必要もありませんが、あまりに清潔すぎることも身体の免疫系にとっては良くないと言えます。

良い意味で、ある程度適当なぐらいがちょうどよいのかもしれません。また、公園など自然の多い場所で運動するなど、日常の中で自然に触れる機会を増やすことも良いかもしれません。



適度な運動と十分な睡眠。

自然界の動物は、食料を確保するために必ず運動(狩りや移動)をしなければならず、疲れれば自然と十分な睡眠・休養もしています。仕事で忙しく、運動不足や睡眠不足、休養不足の状態が続けば、本来の自然界における人間の状態からずれ、健康問題が起きてもおかしくはありません。



ストレスの発散

自然界の動物と人間が大きくずれている点としてストレスがあげられます。自然界には、人間関係や将来への不安などの悩み事はなく、様々な病気の原因としてストレスが大きな影響を与えている可能性はあります。ストレスは万病の元とも言え、最も重要な項目です。

できるだけ、自然界で生きている状態に近づける。


食べているものは本当に自然なモノか。

私たちは様々なものを食べますが、体に悪影響を与えるものが、免疫のバランスを崩す原因であってもおかしくはありません。

何を食べたらよいのか迷った時は、「自然界で生活している動物が食べるかどうか」を考えてみると、一つの判断指標として役立つかもしれません。多くの場合、人間の手で加工されたり生み出されたものは、自然界の動物は食べることは無く、体にとって良くない可能性があります。今現在、自然界で生き残っている動物たちは、体に悪いものを食べてきた種ではなく、体により良いものだけを食べてきた種のはずです。

また、自然のものを原料としていたとしても人間の手を加えれば加えたものほど、自然な状態ではなく、自然界の動物が食べているものとは異なるものです。動物たちは、自然からとれたままの状態の食材を食べています。



薬はできるだけ使わない。

人によって、生まれてから使用する薬の量は大きく違います。使う人はたくさん使いますが、使わない人はほとんど使いません。薬の飲用量の違いは、体にどれだけの化学物質を入れたかの違いです。当然、自然界の動物は薬を全く使うことはありませんが、この差が正常な免疫のバランスをおかしくしている可能性も十分に考えられます。病気が増え始めたのは戦後ですが、薬の使われる量が増え始めたのも戦後です。



適当にやる。

病気のつらい症状を改善するために、これまでの生活習慣を変えることは良いことですが、あまり無理をせず適当にすることが大切です。生活習慣とは、あなたが何十年とかけて積み上げたものであり、それを変えること自体が大きなストレスになることもあります。

「運動をしなければ」、「お菓子を食べないようにしないと」、「睡眠時間を十分に確保しないと」、というように意識して動物は健康的な生活習慣を送っているわけではなく、無意識の中で、何も考えずに日常を送っています。少しずつストレスのかからない程度に、あなたのペースで適当にやることが最も重要です。

健康に全く気を使ってない人が、意外に健康であったりする理由がここにあります。健康になろうと意識すればするほど(あなたが頭の中で考えれば考えるほど)、健康になることが難しくなってきます。健康になるために、あえて健康になることを忘れてしまうぐらいがちょうどいいとも言えます。



この他にも原因はあるかも。

以上は多くの人に当てはまる生活習慣の例として挙げましたが、他にもあなたが普段している生活習慣が、免疫のバランスを崩したり、健康問題を引き起こしている可能性はあります。あなたの日常の習慣の中で、「自然界の動物がしていないことを、してはいないだろうか」と考え、あなたが健康になるのを邪魔していると思うことは、少しずつ控えてみたりして、実験してみるのも良いかもしれません。

他人の健康法をマネすることも良いことですが、あなた自身で作り上げる健康法が、あなたにとって最適な健康法です。

免疫力を上げすぎると、良くないのか?

花粉症(アレルギー)は、免疫の過剰反応であるから、免疫を上げすぎると余計に症状が悪化すると感じる人もいるのではないでしょうか。

アレルギーは、Th1/Th2バランスがTh2優位になっているため、Th2をさらに上げると症状は悪化し、逆にTh1を上げバランスをとってあげると症状は緩和していくと考えられています。一方、Th1を上げすぎると今度は自己免疫疾患のような問題が生じるTh1優位な状態になってしまいます。

免疫力はバランスが大切ですが、その上げ方が重要です。


「身体に自ら、自発的に免疫力を調節させるのか」、それとも「人間の手で強制的に調節するのか」という事です。

カラダが自発的か、カラダに強制的か。
カラダが自発的か、カラダに強制的か。

例えば、血液を取り出し、血液中の免疫細胞を活性化させてから、その血液を体内に戻すことで免疫力を上げることもできますし、薬の力を使って特定の免疫力を上げることも抑制することもできます。

理論的には問題を解決できるように免疫力を人間の手で調節しているはずなのですが、これがうまくいきません。

その理由は、良く分かっていない人間のカラダを、人間の手で強制的に、「いじろう」とするからであるとも言えます。免疫学は近年大きく発展してきていますが、まだまだ人間のカラダのごく一部しか解明できていないのかもしれません。

パソコンの良くわからない人が、壊れたパソコンを直そうとすれば、全く直せないか、もしくはパソコンそのものを壊してしまう可能性もあります。

無理やり免疫力を上げるのではなく、自然な方法で上げることが重要。

人間のカラダ
人間のカラダ

生活習慣などの自然な方法で身体を元気にしてあげれば、カラダが自然に免疫のバランスを保ちながら、免疫力を高めてくれます。また、カラダは、免疫力が上がりすぎないように制御もしてくれます。このような最適な状態を保とうとするカラダのメカニズムを恒常性と言います。

最近では、西洋医学だけでなく代替医療への関心の高まりから、サプリメントで免疫力を上げようと試みる人もいますが、これも先の薬と同様に、免疫力の上げ方が重要です。サプリメントといっても、高度に精製され、エビデンスのあるものは、ほとんど薬と同じと言っても過言ではありません。

サプリ
サプリ

免疫力を上げるサプリメントも様々ですが、大きく分けて2種類あります。1つは、カラダに吸収され、その成分の働きによって強制的に免疫力を上げるもの。もう一つは、カラダに吸収されないけれども、カラダが自ら自然に免疫力を上げようとしてくれるもの。

いずれにしても、問題なく免疫力を高めるためには、いかに自然な方法で、カラダに自発的に免疫力を高めさせたり、免疫のバランスを調節させたりするかが重要です。

免疫力を高めることが良くないことではなく、カラダにとって自然な方法であれば、免疫力を高めることは良いことです。20代の免疫力は40代の倍以上も高いものですが、免疫力が高いからと言って問題になることはありません。バランスのとれた正常な免疫力は、むしろ健康を維持するために必要なモノです。

まとめ

花粉症(アレルギー)の人は、ガンになりにくい傾向があるからと言って、それは決して良いことではありません。そして、ガンになりにくい人が多いというだけで、花粉症だからガンにならないというわけでもありません。

花粉症を説明するのに、「アレルギーコップ」という例えが使われます。すなわち、体内のコップに長期間かけて一定レベルの発症原因がたまり、それがあふれると突然に発症するという話です。一度、花粉症になると自然治癒は困難であるとも言われています。

コップ
コップ

しかし、いくらコップに水が溜まろうとも、一生、花粉症にならない人も存在します。このような人たちは、コップが他の人よりもはるかに大きいというよりも、問題の原因となる免疫のバランスをカラダがいつまでも、うまく調節できている人たちであるとも言えます。

また、生活習慣の改善により、免疫のバランスが正常に戻ることで、花粉症が自然に治る人も存在するため、決してあきらめるべき問題でもないはずです。

花粉症は、免疫のバランスが崩れており、正常な人よりも異常な状態であるというカラダからのサインであるとも言えます。カラダが健康な状態からずれてきていると考え、生活習慣を見直すなど、カラダにとって自然な方法で問題の解決を試みることが重要です。